ジョン平とぼくらの世界


優しい。この作品は相変わらず優しい。もうジョン平が出てきた瞬間からニヤニヤが止まらない。正直「狼と香辛料」が売れて、これが売れない理由がわからない。いやもちろん別物なんだけれども。あと、この作品、実は主人公しげるが前2作とも恋が実らなかったという、稀有なライトノベルっだったりする。恋愛方面はあくまでサブ的だけど主人公の恋が成就するかも秘かに期待してたりする。

高校三年の新学期。北見重は一人の新入生に出会って驚く。彼女が春休みに学校に迷い込んできた女の子・岡崎三葉にそっくりだったからだ。だが、彼女が三葉であるわけはない。ということは、つまり彼女は――かつて重も会ったことのある強力な魔法使い・城塚智樹の娘、城塚さやなのではないだろうか。
様子を見たほうがいい、という助言を寧先生から受け、事態を静観するつもりになった重だが、幼馴染みの鈴音らは、自分たちでもう少し調べてみよう、と妙にノリ気。重とその使い魔・ジョン平も、仕方なく彼らの調査につきあうことにするのだが……。

シリーズ完結?なので、ストーリー部分は一応終結しています。
突然だが、この作品は過程楽しむ小説だ。
正直、今回は色々と詰め込み過ぎてストーリー部分が少し窮屈な印象を受けた。ただし、そんなことは瑣末な問題である。それを補って余りあるパワーが「ジョン平」にあるのだから。つまり、先述の通りこの小説は過程を経て結末へと向かう、その過程を第一に楽しむべきであり、それが何の過程か、どんな結末かなのは必然的に優先順位が落ちるのである。
だから、敢えて言うと、これは作者には失礼かもしれないが、僕は本当は身も蓋もない話が読みたい。
例えば、ジョン平が自分の尻尾を追いかけて、ぐるぐるぐるぐる回ってバターになってしまった。
そんな話が読みたい。
最初に書いた恋愛方面は読んでのお楽しみってことで。
でもショックだったのはジョン平が実は○○で、だから重も△△だったこと。まあ、よくよく考えてみれば伏線だったのかもしれないけど。でも、ここは最後までダメダメでいて欲しかった。何でもアリのようで実は縛りの厳しいライトノベル。その型から外れて欲しかった。そこはちょっとだけがっかり。でもまあ、これはあくまで個人的な願望であって作品がダメってことじゃないです。それによく考えたら重たちがダメダメなのは変わっていませんでした。
あとがき曰く、次回は短編集が出せたらな、とのことです。作品紹介やその他をみても、終わりを匂わす感じはしないのでおそらく出せるんじゃないでしょうか。それこそ、この小説の「本質」だったりすると思うので、大変楽しみにしています。


作品内に溢れる優しさに身を委ねつつ、ジョン平にニヤニヤする。
「いつまでも、さんぽしよう、しげる
時々、こんな言葉で目頭を熱くさせる。
「ジョン平とぼくと」はそんな小説なんだ。