戦う司書と追想の魔女

戦う司書と追想の魔女 (スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と追想の魔女 (スーパーダッシュ文庫)


子供の頃に読む作品は、しばしば愛と正義で語られる。
愛と正義を持つ者が悪を滅ぼし、夢と希望に溢れた世界を獲得する。
しかし、いつしか愛と正義だけでは社会が成り立たないという事を無意識の内に理解する。
必要悪の存在。
こうして、この微妙なバランス関係の上に社会が、組織が成り立つ事を自覚して、
悲しくも我々は大人になっていく。


各巻の登場人物は非常に原初的な感情を欲している。
それを一言でいうなら「愛」かもしれない。
恋愛、友愛、母性愛、敬愛…。
今回も形は違えど「愛」を描いている。
ヴォルケンは強い正義を愛し、オリビアは愛そのものを求めた。
ある意味、二人に差異はほとんどなかった。
リビアは常に愛を享受していた。ヴォルケンは正義を愛す心を与えようとした。
与えようとする者と与えられている者。ただ、それだけの違いであった。


大人になったら消えて忘れてしまう様な感情。偽善と罵られる様な感情。
二人はそんなものを、ただ必死に追い求めている。
そして、そこに立ち塞がるのがハミュッツ=メセタ。
正義の立場にありながら悪を内包した存在。
果たして愛と正義でハミュッツを倒す事は出来るのか?


と、ここまで書いてきて気付きましたが、


この人、どう転んでも悪役です。


九割方風呂敷を広げ、残す謎もあと少し。終幕への足音も聞こえてきました。
どうやって着地させるのかは見当もつきませんが、次回作も期待したいと思います。


(注:「戦う司書と荒縄の姫君」を読む前の感想です。荒縄の姫君の感想はこちら