天地明察

天地明察

天地明察


冲方丁の新作はSFでもファンタジーでもバトルでもなく、ある男の半生を描いた時代小説。

江戸時代、前代未聞のベンチャー企業に生涯を賭けた男がいた。
ミッションは「日本独自の暦」を作ること――。
碁打ちにして数学者・渋川春海の二十年にわたる奮闘挫折喜びそして恋!!

久々に「続きを読むのが惜しい!」という感覚を味わうことができた傑作。
渋川春海という人物の半生を描いているのだが、この春海という人物が良い。彼は新たな暦法を作るという、我々が想像もできない事業を行うのだが、老中に思わず碁打ちとしての人生が退屈だと言い、優れた算術には素直に感銘を受け、また挫折の度に、失意のどん底に落ちるような、「おいおいこんな人物がほんとに改暦なんてできるのかい」と言いたくなるが、それでいて憎むことができない愛敬のある人物。
そんな晴海の人生を変えていくのは、多くの出会いと挫折であった。算学の天才、関考和との出会いから始まり、酒井、保科、水戸光圀といった天下に名立たる人々の期待と支援を受け、幾つになっても夢を忘れない武部や伊藤に自身も奮起し、そして常に支えてくれた安藤や闇斎、えんの信頼を糧に、春海はどんどん成長していく。算術勝負に負けて切腹しようとしていた頃から比べると「必至!」と力強く答える春海はとてもかっこいい。
また同時に多くの挫折や敗北を味わい、その度に立ち上がってきたからこそ、最後の逆境においても(負けることには慣れている)という台詞が出てきたのは、春海の二十年を見てきた私には感慨深いものがあった。すべてはこのときのための布石なのだと。

主人公とともに喜び、悲しみ、感動できる素晴らしい小説。冲方丁の進化を感じる一冊。おすすめ。