虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)


これまたすごい新人が現れた。
近未来の米軍を舞台にしたミリタリーSF。簡単にミリタリーSFといったが、言語や脳科学、進化論まで多岐に渡って読者を楽しませてくれる。この作品に限らないけど知性溢れる会話、議論ってのは読んでるこっちも気持ち良い。頭がよくなった気がする。*1で、そんな小難しい話は抜きにしてもエンターテイメントとして十分に面白い作品だった。
「選択」ということが、一つの大きなテーマになっていた(と思う)。初めはナイーブな主人公の成長物語かとも思ったが(母親のくだり)、そんな生易しいものではなくって、自由とは何か、戦争はなくなるの?平和って何?てなことを作品内で次々に提議していって、そしてそれはもちろん、僕たち読者にも問いかけられる問題であって、だからラストは賛否両論かもしれないけど、否定するにしても肯定するにしても簡単にはできないと思う。
虐殺器官」という題材、あるいは作品そのものは、新しいというよりはむしろ古いかもしれないけど、それでもこれは10年前でも10年後にも書けない今しかない、今読むべき小説だと思う。時々読者をはっと気付かせたり、クラッとさせたり良い文章を書く作家だ。うーんSFはすんごい時代が来たもんだ。

※余談
ルツィアを「罪と罰」のソーニャに例えようとしたけど、そもそも似てないし、そもそも「罪と罰」を大方忘れてたよ…。

*1:気がするだけ。